血液のがん白血病を治療する新薬「キムリア」健康保険適用と今後の課題

血液のがん白血病を治療する新薬「キムリア」健康保険適用と今後の課題

血液のがん白血病を治療する新薬「キムリア」健康保険適用に

一部の白血病などの血液のがんを治療する新薬、「キムリア」の保険適用を中央社会保険医療協議会((中医協ともいわれる)厚生労働省の諮問機関)は認証した。

中央社会保険医療協議会の中でキムリアの公定価格(薬価)を3349万という案を提示し了承され5/22日から適用となります。患者から採取した免疫細胞の遺伝子を改変してがんへの攻撃力を高めるというなんとも金額も内容もケタ外れのこのキムリア。

キムリアはスイス製薬大手ノバルティスが開発し、国内では初の保険適用になるが、アメリカ、欧州、カナダ、スイスでは製造・販売の承認を得ています。

キムリアは何度も投与する必要はなく、若年の白血病患者8割に治療効果が検証されています。治療対象は白血病の患者で抗がん剤が効かなかった人限定となるため、対象は毎年最大で216人。

日本に216人だけしかいないというわけではなく、毎年最大で216人という点に注意が必要です。

3349万円が216人なので単純に掛け算をすると年間の予算は72億円となる。後ほど同じくらい話題の高額薬オブジーボの事例でも解説しますが、簡単に言えば72億円だから健康保険の対象にしてもまあいいでしょうと国は考えたということです。

・・・そんな余裕はない気がしますけどね。

labo

キムリアはオブジーボと違って1度の使用で効果があるからとはいえ、一般の人がこの薬を利用するのは大変です。そこで公的医療保険が登場します。公的医療保険は小学生未満までは医療費が2割だけの負担、小学生入学から70歳未満までは3割負担で済むという制度です。

しかしいくら3割の負担とはいえ、3349万円の3割負担はたいへんですよね。約1000万の自己負担になります。

そこでさらに日本の公的医療保険制度では高額療養費という制度を用意しています。一定額以上の医療費を月に同一の医療機関で利用した場合は、自己負担の上限が決まっているのです。

所得によって異なるのですが、一番一般的な事例で見ていきましょう。公式は以下の通りです。

80100円+(かかった医療費-267000)×1%=自己負担額の上限です。

今回のキムリアの場合はかかった医療費のところに3499万がはいりますので、これを計算すると

自己負担は427,330円が自己負担額になります。

その他の所得の場合の高額療養費はコチラを参考にしてください。

3499万円の治療で8割がた治療が見込めるなら誰だって受けてみたいですよね。

しかしこの差額のお金はどこから出ているのでしょうか?

キムリアの自己負担以外のお金は私たちの懐から・・

高額で夢のような治療を受けることができるのですが、このお金は一体どこから出ているのかというと、皆さんが払っているまたは給与天引きされている健康保険料から支払われています。そしてもう半分は国が払っています。簡単に言えば税金です。原資は全部私たちのお金じゃないですか!!

健康保険料について

健康保険の自己負担以外のお金の出どころは国、都道府県、市町村民が50%各健康保険組合+後期高齢さ医療制度で残りの50%をお金を出し合っています。

以下の表のように国、都道府県、市町村民以外は75歳以上の後期高齢者医療制度や自営業者などが加入する国民健康保険、お勤めの方が加入する協会けんぽや健康保険組合、共済組合みんながお金をだしあって、病気にかかって医療費がかかって困っている人の負担を減らすという制度になっているのです。

では、今回のキムリアのような高額な治療を受ける人がたくさん表れ始めたらどうなるでしょうか?

各健康保険組合からもっとお金を集めないと、困った人の自己負担を減らしてあげることができません。ということはまわりまわって私たちの健康保険料の上昇につながり、給料から天引きされる健康保険料が上昇していくことにつながりかねません。

キムリアに関しては1度きりですが、その他有名なところではオブジーボは約3500万(肺がんで60キロの患者が1年使用した場合)、ハーボニー約670万といったところですが、まだまだ高額な薬は今後も登場してくるでしょう。

病気になっている人には申し訳ないですが、このお金私たちの保険料から出ているんですけど・・となります。

特に大企業主体の健康保険組合は大企業で収入が高い人が被保険者にたくさんいるため、狙い撃ちをされています。健康保険組合の保険料率の上昇が特に目立ち始めているのです。いくら収入が高いからって、我慢できないレベルまで達しています。

国民医療費はずっと伸び続けている

国民の医療費は着実に伸び続けています。この医療費の伸びの原因の一つが高額な薬と言われています。

国の医療費
出典 財務省ホームページ

以下の表を見てもらうと、平成28年は表に現れていませんが赤い部分が国民医療費の伸びの中でも、医療の高度化が要因となった伸び率を表しています。その中に高額薬が含まれています。

医療費伸び率
出典財務省ホームページ

さらに薬価については何を根拠に価格が決まっているのかブラックボックスであることも問題視されています。

アメリカではこのキムリアは5200万円に設定されており、この金額をそのまま日本に持ってくることは世の中の批判を浴びる可能性があったため、オブジーボ3500万をうかがうような値段設定をしたのではという見方もあります。

もしこれが本当なら、、そんな都合で5200万を3499万にできちゃうなんて一体薬の価格ってどうなってんのよ!と誰だって思いますよね。

その原因となっている高額薬ですが、価格の詳細については明らかにされていません。

なぜ高額薬はブラックボックスになるのか?

一般用医薬品という通常のドラッグストアなどで購入できる薬は大衆薬、一般用医療品といい製薬会社が価格を決められます。しかし、医師が処方する医療用の医薬品は健康保険などの公的医療保険の算定となるので、国が値段を決めるのです

なぜ高額薬は高くなるのか?

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新薬の開発は困難を極め、研究開発費が高騰していく傾向にあります。今回のキムリアもそうですが、オブジーボの際も薬価が当時はまだ高く(今もまだ高いですが・・)患者数が470人の皮膚がんを想定していました。したがって薬価が高く健康保険適用になっても健康保険料に与える影響は軽微だと思われていました。その後肺がんの患者にもオブジーボは使えるようになり、想定患者数が約15000人に急増し問題視されるようになった。

新薬は画期的な商品なため、同じような効果のくすりと比較して決めるという参考になるものがありません。そのため、国と製薬会社が開発費用や想定される患者数がどれくらいいるかを話し合い、開発費を回収できるような薬価を決めるのです。それが今回は3499万円になったのです。

根拠がないということでちゃんと中身を見せろという声はもちろん上がっています。

過度にこの開発費にメスを入れることは、今まで治療不能だった病気を治すことができるようになる可能性を自らの手で閉ざしてしまうことになります。

高額薬と健康保険制度にまつわる今後の課題

高額薬は画期的な治療であり、該当者は少ないにしても今まで助からなかった人が回復に向かうチャンスです。このような技術が裕福な人にしか適用しないのであれば、弱い立場の人を救済するためにある社会保障の意義が全く崩れてしまいます。

だとするなら、医療費の伸びを抑制するためにメスを入れるのは高額薬ではなく薬局で同じような市販薬が購入できるもの・・ビタミン剤や湿布などは保険の適用から外してはどうかという議論も現れ始めています。

今でも医療保険制度はかなり厳しい状況ですが、かなり高い確率で、近い将来市販薬が健康保険から外れる可能性は高いでしょう。